はじめに
そもそも、発酵食品て何?って思う人もいるかもしれません。
発酵食品とは、大豆、米、麦、魚、肉などの食べものに含まれるタンパク質やデンプン質などの栄養素を、細菌、麹、カビ、酵母菌などの微生物が分解し、うまみ成分であるアミノ酸やアルコール、乳酸などが生成された食品のことです。
直ぐに思いつくものに、朝食の定番の納豆、味噌、豆腐、醤油、お漬物、更にはヨーグルト、チーズ、韓国からはキムチ、忘れてはいけないお酒や、ビール、ワイン、ウイスキーも発酵食品ですね。
簡単に言えば、食卓に上る食品ほとんどに発酵食品が含まれるということです。
同じような現象に腐る、腐敗という現象があります。
微生物の働きによって食品に含まれる栄養素が分解され、硫化水素やアンモニアなどが生成されている状態のことをいいます。
発酵も腐敗も「微生物が生成する」という点では同じですが、人間にとって美味しいもの、役立つものであれば「発酵」と呼ばれ、人間にとって害であれば「腐敗」と呼ばれます。
微生物の種類や分解する物質によって、生成されるの性質が異なるだけです。
微生物にとっては、やっていることは同じなんですけど。
1)発酵食品は体内で吸収されやすい
食べ物を食べても、体に吸収されなければ意味がないですよね。
食べ物は食べる時にはよく噛んで、細かく砕いて、唾液や消化液とよく混ざる必要があります。
そのことによって、タンパク質はアミノ酸に分解されて腸から吸収されます。
食べ物をよく噛まずに飲み込んだりすると、固いままのものは十分に消化されず排泄されてしまいます。
固くて分解しにくく、栄養も吸収されにくいので、たくさん摂取したとしてもほとんどの栄養が吸収されずに、そのまま体内にとどまっている時間切れとして排泄されていってしまうのです。
つまり、栄養を吸収するためには、栄養素を小さく分解し栄養吸収をスムーズにする必要があります。
発酵食品は微生物が栄養素を分解して分子を小さくしてくれるので、最初から栄養が体内に吸収されやすい状態になっていということです。
また、発酵食品に含まれている微生物が、消化しにくいものを分解してくれるというわけです。
同時に、発酵食品の、乳酸菌や酵母菌などの善玉菌を増やして悪玉菌の力を抑え、腸内環境を整えて栄養を吸収しやすくする効果が期待できます。
そのため、食材をそのまま摂取するよりも、より多くの栄養素を吸収できるというメリットがあるのです。
例えば大豆です。大豆は畑のお肉と言われるように、タンパク質が豊富です。
もちろんそのまま大豆として食べても良いのですが、体内では十分に分解されないことがあります。
そこで大豆発酵食品の登場です。
体内では分解されにくい大豆を原料に、麹菌と耐塩性の微生物を作用させてタンパク質をじっくりとアミノ酸に分解したものが味噌や、醤油です。
特に醤油は、大豆のタンパク質がほとんど分解されたアミノ酸になっているので、味や香りが良いのです。
また、発酵食品には、ミネラルやビタミン、食物繊維がたくさん含まれています。
大豆を発酵させた納豆では、納豆菌がビタミンまで作っていることも知られています。
ありがたいことに納豆菌は大豆そのものよりも栄養価を増やしてくれているんです。
2)栄養価がアップする秘密
微生物が食材を発酵させる過程では、食材に元々含まれていなかった栄養成分をたくさん生成します。
そして、もともとの栄養成分を増加させたりする働きが起こります。
そのおかげで、発酵食品は原料となっている食品よりも栄養価がアップするのです。
さらに乳酸菌やビフィズス菌は自分でビタミンを作ることができるのです。
人間はビタミンを体内で作ることができません。
ビタミンを得るためには、果物や野菜などを食べる必要があります。
ところが乳酸菌やビフィズス菌は人の腸の中でビタミンを作ることができるのです。
ビタミンを作っては吐き出してくれるので、つまり、発酵食品を食べることは、ビタミンを含んでいる食品を取らなくても同じ効果があることになります。
発酵食品の代表格ともいえる大豆を発酵させた納豆では、納豆菌がビタミンを自らつくっていることもわかっています。
大豆そのものよりも栄養が増えているんですね。
納豆の場合、葉酸は大豆の3倍、ビタミンB2が大豆の7倍、ビタミンKにおいては茹でた大豆の120倍にもなることが分かっています。
大豆から作った納豆が、大豆の栄養価を大きく上回るという結果がでています。
納豆菌に大豆を発酵させるだけで、もとの大豆の何倍にも栄養価がアップするのだから、発酵食品が人類にとっていかに優れた食品であるかがわかります。
ちなみに、朝食の定番の納豆は実は夜に食べたほうがより栄養を吸収する、と言われています。
その理由としては、昼間は体や頭が活発に活動しているので、血流は脳や筋肉に多く回り、消化に費やされる血液は限られています。
寝ている間や安静時は、消化管に血液が多く流れるので、より効率的に栄養が吸収されるというわけです。
お相撲さんが、朝、空腹で稽古をして、その後食事をして昼寝をするというのも理にかなっているのかもしれません。
3)発酵食品と免疫アップの関係
さらに、発酵食品には素晴らしい働きがあります。
そう、新型コロナ感染症でも注目を集めている免疫力のことです。
ウイルスや細菌から私たちの体を守る免疫力を高めてくれるのです。
発酵食品を食べると、なぜ免疫力がアップするのでしょうか。
ポイントは腸にあります。
私たちの体の中で腸は、栄養を吸収するという機能に加えて、免疫を作るという大切な役割を持っています。
人間の免疫細胞の約7割は、腸内に存在しているといわれています。
免疫細胞の働きが弱まると免疫力が低下し、病気にかかりやすくなります。
免疫細胞の働きが活発になると免疫力が向上し、病気にかかり難くなります。
腸が免疫を作るときに欠かせないのが発酵食品にたくさん含まれている、乳酸菌やビフィズス菌です。
発酵食品を食べると、乳酸菌やビフィズス菌が腸に取り込まれ小腸壁を通るときに免疫細胞を活性化する作用があり、腸が免疫を作る力を高めるます。
そのため、発酵食品を食べると、免疫力がアップするのです。
つまり、発酵食品が、免疫をつくることを手助けし、免疫力のアップにつながるということになります。
また、乳酸菌は腸内の善玉菌の餌にもなるため、発酵食品をたっぷり摂取することで善玉菌を増やして、腸内環境を整える効果も期待できます。
善玉菌が減り、悪玉菌が増えると便秘になり、腸内に腐敗物が溜まり、有毒なガスが発生し、その影響で免疫細胞の働きが弱まってしまうのです。
おならが臭い人は腸内環境があまり良くないのかもしれません。
4)旨味(うまみ)成分が増す
発酵食品は独特の旨味を感じることがあると思います。
微生物は、食材を酵素で分解しながら、食材を発酵させ、タンパク質を旨味成分であるアミノ酸にに変えたり、デンプン質を甘み成分に変えています。
これが発酵食品をおいしいと感じる独特の旨味です。
このように旨味成分をアップするというところも、発酵食品が体にいい理由の一つです。
ぬか漬けした野菜は、生で食べるのとは違う香りや旨味を感じると思います。
納豆はにおいがダメという人も多いですが、それでも味は好きという人が多いのも旨味を感じている証拠です。
匂いによって好き嫌いが結構分かれる発酵食品ではありますが、それぞれの発酵食品にしかない旨味を引き出しているのが発酵食品の魅力です。
肉や魚を味噌漬けにしたり麹でもみ込む発酵も同様に旨味成分を引き出しています。
発酵食品の旨味の原因は、製造過程で、微生物のなかの酵素がタンパク質を分解したアミノ酸です。
ではなぜアミノ酸になると旨味がアップするのでしょうか。
実は、肉などタンパク質単体では、味はほとんどしません。
その理由は、タンパク質は分子が大きいため、味を感知する舌の受容体にははまりきらず、舌のうえに乗せても味を感じられないのです。
これは、新鮮な肉ほど味がせず、熟成が進むと旨味が深まる理由にもつながっています。
肉は少し古い方がおいしいとか、熟成肉の方がおいしいと言われます。
熟成が進むと、肉自身がもっている酵素が、タンパク質をアミノ酸に分解します。
アミノ酸は、その種類によってそれぞれ味が異なり、多種多様な味わいを感じることができます。
熟成は自身のもっている酵素によって、タンパク質がアミノ酸に分解されることです。
発酵は微生物の働きによって、タンパク質がアミノ酸に分解されます
アミノ酸になることで、その結果深い旨味を感じられ、おいしさを感じることができるのは、熟成も発酵も同じ仕組みです。
これが、お肉の熟成や、肉魚を味噌漬けにしたり麹でもみ込む発酵により、素材の旨味が増すということです。
5)保存性アップ
発酵というのは、元々は食材を保存するために生まれた技術でもあります。
食材が古くなって、菌が繁殖すれば人間や動物に有害な硫化水素やアンモニアなどが生成されていわゆる腐った状態になります。
しかし、昔の人は腐敗と発酵の違いを知っていたんですね。
たとえば、牛乳をただ放置していれば腐敗するが、うまく有用な微生物を取り入れればヨーグルトやチーズなどの保存食になることが分かっていました。
魚の塩漬けなど、さまざまな食材を塩漬けにして保存する過程で食材の発酵を経験的に知っていました。
そして、保存出来るだけでなく、おいしくなることも発見しました。
有用な微生物はアミノ酸や乳酸など旨味成分を生成し、人間に有用な発酵食品となるということも。
このように、食材のままでは腐ってしまうものであっても、発酵の技術によって保存性が高くなるということも大きなメリットです。
これをうまく使って、世界的に問題になっている食品ロスを減らすことになれば、SDGsにもつながります。